女性の性病(性器の感染症)
診療案内
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性感染症は、外陰部・腟・子宮と言った生殖器に起こる感染症のうちで、性行為が関与する感染症です。以前は性病などと言われていたものです。
感染経路としては性的な接触、手指と言った外からの影響、他には腟内の環境の変化による正常な細菌叢(種々の細菌が混在してバランスが取れている状態)の乱れによるもの、自浄作用が低下したことによるものがあります。腟と外陰は隣り合わせに繋がっているので、感染した場合は双方に影響が及ぶ事があります。症状は外陰のかゆみやおりもので、当院でもすでに別のページで一部解説しております。
他には外陰の痛みが出る場合があります。
クラミジアと淋菌感染症。症状など類似点も多いので、まとめて説明します 。
通常は腟側から感染が起こり子宮頸管炎、ひいては骨盤腹膜炎を起こします。重症化して上腹部まで感染が広がると Fitz Hugh Curtis (フィッツ・ヒュー・カーティス)症候群と称する肝周囲炎を起こしたりします。
感染によって、卵管やその周囲に炎症やその後の癒着を起こし不妊の原因になったりします。
妊娠中に感染すると流産・早産を引き起こします。淋菌は児に産道感染を起こし新生児淋菌性結膜炎をおこしたりします。角膜穿孔を起こして失明する可能性もあります。
病原体は淋菌が Neisseria gonorrhoeae (ナイセリア ゴノレア)で、クラミジアが Chlamydia trachomatis (クラミジア トラコマティス)です。
自覚症状は帯下(おりもの)の増加、下腹痛ですが、淋菌性子宮頸管炎(女性)の40%、クラミジア子宮頸管炎の半数以上は自覚症状がないと言われています。
また咽頭に感染していることもあります。症状は咽頭炎ですので、のどの痛みという事になりますが、自覚症状のない方も多いです。子宮での感染がはっきりした方の10~30%(淋菌)、10~20%(クラミジア)で咽頭からも病原体が検出されます。
通常は子宮頸管粘液を採取し、病原体の検出(拡散増幅法)を行います。
淋菌は抗生物質(セフトリアキソン)の点滴、クラミジアは抗菌薬(アジスロマイシン)の内服をおこないます。
性交渉で感染するので、パートナーの治療も重要です。
感染により生涯免疫が獲得されるわけではないので、治療をしても機会があれば再感染します。
子宮頸管炎の場合は治癒判定が必要です。特に淋菌の場合は耐性菌出現の問題もあり、治癒判定が必要です。
通常抗生物質に対する耐性は抗生剤に強い菌が残って増殖して耐性を獲得するという事になるのですが、淋菌は異なる過程があります。
淋菌は、口腔内常在菌であるナイセリア属と同じ仲間に分類されます。淋菌が咽頭に感染すると、元々口腔内に定着しているナイセリア属からの遺伝子導入(淋菌の自然形質転換能とると、元々口腔内に定着しているナイセリア属からの遺伝子導入(淋菌の自然形質転換能と呼ばれる遺伝子を受け取る特殊な性質)により、ある特定の遺伝子領域が変化(変異)します。この変化(変異)が、抗生剤に対し耐性化する要因と考えられています。これはなかなか凄い機構なので、性産業や性交渉や性交渉に対する啓発なども必要と思われます。
毛嚢炎(もうのうえん)自体は、性感染症ではありませんが、性感染症の相談によくあるので、ここで説明します。「外陰部のかゆみ」のページに「嚢胞外陰炎、膿瘡」と簡単に触れただけでしたので、もう少し詳しくお話します。毛の根元のところに感染が起こるものです。小さいものは経過観察だけで治ってしまうこともあります。大きくなると腫れ上がってきて痛くなります。そうなって受診される方が多いです。黄色ブドウ球菌などのブドウ球菌が原因のことが多く、抗生物質の外用薬(塗り薬)で治療します。ひどくなれば抗生物質の内服をします。場合によっては切開して膿を出す必要があります。
腟の入口にあって粘液を作り出す、バルトリン腺に炎症が起こったものです。バルトリン腺から管がつながって外へ粘液を出しますが、この管が詰まると粘液がバルトリン腺に溜まって嚢胞となり、そこにばい菌の感染が起こってバルトリン腺炎・バルトリン腺膿瘍になります。こうなると痛みが出てきて、受診されることが多くなります。通常は抗生物質の内服で良くなりますが、膿瘍の穿刺や切開排膿、嚢胞の開窓術や摘出術が必要になることもあります。手術が必要になる場合は、提携医療機関へ紹介します。
真菌(主にカンジダ-アルビカンス)の感染によって起こります。「外陰部のかゆみ」のページに記載しておりますので、ご参照ください。
腟内の常在菌が少なくなって、他のばい菌が増えてしまっている状態です。おりものが増えたり、臭い(魚が腐ったようなと表現されることがあります)がしたりします。腟分泌物中の白血球が増えて炎症所見がはっきりしてきたものは細菌性腟炎になります。抗生物質の腟錠を用いて治療します。内服の抗生物質もあります。
「外陰部のかゆみ」のページにも 記載しておりますが、すこし追加しますと顕性感染の中で二次感染(病変部にさらに他のばい菌が感染してしまう)を引き起こしてしまう事例もあり、通通常の治療でよくならない場合は再度受診頂く場合もあります。また、短期間で再発する事常の治療でよくならない場合は再度受診頂く場合もあります。
「外陰部のかゆみ」のページに記載しておりますので、ご参照ください。
「外陰部のかゆみ」のページにも記載しておりますが、少し付け加えますと、性行為で感染するのが主体ですが、浴室で感染する事例もあります。特に浴槽の縁や椅子など直接外陰が触れる可能性のある所やタオルなどに注意してください。また、感染者の20%から50%は無症候性(無症状)であると言われますが、その1/3は6ヶ月以内に症状が出るようになると言われております。泡状で悪臭の強いおりもの、外陰部や腟の刺激感、かゆみと言った症状が典型的です。おりものは腟炎になることで生じてくると言われております。ですから他の菌も混合して増えてくることによって臭いが出るのだろうと考えられています。治療は「外陰部のかゆみ」のページにも記したとおり、内服薬で行われますが、妊娠初期の方など内服が適さない方には腟錠の治療も選択されます。パートナーの治療も重要です。男性は女性に比べ、トリコモナスの検出が困難であり、「陰性」と判定されてしまうことがありますので、治療をしてもらうように促しましょう。通常は治療効果は十分にありますので、治癒判定(治ったかどうかの検査)は不要です。
これは性感染症ではなくて、色々なところにできる帯状疱疹が、たまたま外陰にできたものです。症状は帯状疱疹と同じで痛いです。帯状疱疹に準じた治療を行います。高齢者の帯状疱疹は帯状疱疹後神経痛(これもかなり痛いです)を起こしやすいので、帯状疱疹予防ワクチンを接種しましょう。満 50 歳以上の方が対象で、名古屋市民の方は名古屋市からの補助(名古屋市サイトに移動)があります(お安く接種できます)。
その他には外陰部のかゆみを起こすものとして毛じらみ症などもあります。
外陰に潰瘍を起こす疾患として、最近注目されている疾患として「梅毒」があります。
梅毒は梅毒トレポネーマによる細菌性の性感染症で、主として性行為または類似の行為により感染する性感染症の代表的疾患です。世界中に広くみられます。梅毒は ”The Great Imitator(模倣の名人 他の病気の症状に似た症状が多く、他の病気を模倣しているようになって診断が難しい事から「模倣の名人」言われます。)” と呼ばれるように、全身に多彩な臨床症状をきたす可能性があり、適切な抗菌薬治療を受けなければ、深刻な健康上の影響 が起こり得ます。また、母子感染により、流産、死産、先天梅毒などを起こします。梅毒は、(特に最近は日本でも)症例数が多いこと、治療に有効な抗菌薬があること、適切な抗菌薬治療により母子感染を防ぎうることなどから、公衆衛生上重点的に対策をすべき疾患として位置付けられています。
梅毒トレポネーマは皮膚や粘膜の微細な傷(目には見えないようなごく小さな傷)から侵入し、その後速やかに全身に広がります。
最初の症状(早期梅毒第1期、梅毒一次病変):梅毒トレポネーマの侵入部位に、初期硬結、硬性下疳などの限局性の病変が出現します。硬くなったり、潰瘍ができたりするという事です。しかし、これは典型的経過で、このようにはならず、よく見られるような丘疹(少し盛り上がった皮疹)やびらん(表面が少しただれた感じ)程度のこともあって、受診されずに経過してしまう場合もあります。所属リンパ節腫脹(病変の近くのリンパ節の腫脹)を伴うこともあります。これらの症状や所見は無痛性の場合が多いです。感染後 1 か月前後が経過すると出現して、約36週間で自然に軽快します。
次の症状(早期梅毒第2期):上記、最初の症状が出現してから1~3か月程度経過すると、梅毒トレポネーマが全身へ血行性に移行し、全身に多彩な症状が出現します。特徴的な症状として梅毒性バラ疹、丘疹性梅毒疹、扁平コンジローマがあります。バラ疹は、手掌や手背、下腿、前腕、背部などを中心に、無痛性の紅斑ができることを言います。他の皮膚疾患と紛らわしいので、分かりにくいです。また、発熱や倦怠感、全身性リンパ節腫脹に加え、消化器系、泌尿器系、筋骨格系の症状や所見を呈することもあります。
さらにこの後の症状もありますが、早期の症状が重要なので、割愛します。
妊娠中の梅毒について:妊娠初期の血液検査(妊婦健診票に含まれています)で発見されることが多いです。その時点で速やかに追加検査、早期治療を行う事が重要です。早期梅毒のうちに治療を出来れば先天梅毒の発症を減らせる可能性があります。
病変部位からの梅毒トレポネーマの証明が一番ですが、この検査には保険適応がなく、検出も難しいです。ですから通常は血液検査で行われます。梅毒トレポネーマ抗体(TPHA)と非トレポネーマ脂質抗体(RPR)で診断が行われます。
抗生物質(ペニシリン)の内服、注射が行われます。注射薬は2022年1月に発売されたばかりです。治療を始めたころに Jarish Herxheimer (ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応が起こります。これは発熱です。また、投与8日目ごろから皮疹が発生します。どちらも女性に起こりやすいです。こうしたことが起こっても通常治療は続けます。
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