子宮筋腫は悪性の腫瘍ですか?

子宮筋腫は「子宮平滑筋に発生する良性腫瘍」です。30歳以上の女性の20~30%にみられるありふれたものですが、子宮肉腫や卵巣がんなど悪性の病気と見分けることや、過多月経、月経困難症、圧迫症状は、内膜症など他の疾患でもみられることがあり、正しい診断が必要です。

子宮の構造

子宮は西洋ナシをひっくり返したみたいな逆三角形型をしています。下側の細い方が子宮頸部(しきゅうけいぶ)、上側の太い方が子宮体部(しきゅうたいぶ)です。
平均的な大きさは上下の長さ7cm、左右の幅4.5cm、前後の厚さ3cmほどです。

内側から、粘膜(ねんまく)、筋層(きんそう)、漿膜(しょうまく)で構成されています。
粘膜は子宮内膜のことで、卵巣の周期的変化(卵子の発育、排卵、黄体化)に呼応して変化し、妊娠しなければ月経として外に排出されます。
筋層は筋肉で構成されており、厚みがあります。子宮の筋肉は平滑筋という種類の筋肉です。ここにできるのが子宮筋腫です。良性腫瘍ですから、がんではありません。
漿膜は子宮外膜のことで腹膜に続いていきます。

筋腫の種類

子宮筋腫の発生原因はよくわかっていません。
子宮筋腫を起こす細胞にはエストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)の受容体が発現しており、これらのホルモンが増殖に関与しています。

子宮筋腫のうち約95%が子宮体部に、約5%が子宮頸部に、まれに子宮腟部に発生します。
発育する方向により、粘膜下筋腫、筋層内筋腫、漿膜下筋腫に分かれます。
筋層内筋腫が最も多いのですが、筋腫の60~70%が多発性で、粘膜下筋腫や漿膜下筋腫が混在することもあります。

子宮筋腫の症状

子宮筋腫の約半数は無症状ですが、筋腫の大きさや発生部位によって、さまざまな症状を起こす可能性があります。

粘膜下筋腫は子宮内膜の直下に発生し、子宮内膜の方(子宮の内側)へ発育します。これによって月経の増量(過多月経)、痛み(月経困難症)、妊娠しづらくなる(不妊症)といった症状が出る可能性があります。

筋層内筋腫は子宮筋層内で発育します。大きくなるにつれて過多月経や、圧迫症状(膀胱や直腸を圧迫する)が起こります。

過多月経、月経困難、不妊で受診された方に筋腫が見つかる場合もありますし、おなかに固いしこりを触れることで受診される方もあります。子宮筋腫が大きくなると血流が悪くなって変性し、そこに感染を合併するなどして腹痛を起こすこともあります。

子宮筋腫の診断

過多月経、月経困難症、圧迫症状は、内膜症など他の疾患でもみられることがあり、正しい診断が必要です。

診断には、内診や超音波検査、MRI検査などを行います。
内診では子宮がゴツゴツと触れます。筋腫が変性したり感染を引き起こしたりした場合には痛みを伴うことがあります。
超音波検査は、腟からの検査では子宮内膜と筋腫との関係性がわかりやすいですが、多発性の筋腫や大きな筋腫では、おなかの上からの超音波検査の方がよくわかります。必要に応じて検査法を使い分けます。
子宮肉腫や卵巣がんなど、悪性の病気と見分けることが大事です。

子宮筋腫の治療

良性の腫瘍ですので、症状の程度、年齢、ご本人の希望などによっては、治療を行わずに経過を観察するのみのこともあります。経過観察のために来院していただく頻度は患者さんによって様々ですが、多くは3か月から1年といったところです。

治療が必要と判断するのは、
(1)症状が強い(月経困難症、過多月経とそれに伴う鉄欠乏性貧血が起こる、筋腫が大きくて膀胱や直腸を圧迫して頻尿症や残便感が起こる)場合。
(2)妊娠を希望されている方で、筋腫が妊娠の障害になると考えられる場合。
(3)妊娠中の方で、妊娠経過や分娩時に筋腫が障害になる可能性が高いと考えられる場合。
(4)悪性疾患との見極めが困難な場合。
といったところです。

治療としては、以下のものがあります。

1.対症療法

消炎鎮痛剤、止血剤、鉄剤といったもので月経困難症や過多月経とそれに伴う鉄欠乏性貧血に対して症状の緩和を図ります。

2.GnRh アゴニスト療法(偽閉経療法)

GnRhはgonadotropin releasing hormoneのことで、ゴナドトロピン放出ホルモンといいます。
このホルモンが脳の視床下部から分泌されると、下垂体からはFSHやLHなどゴナドトロピンというホルモンが分泌され、その結果、卵巣での卵胞発育や排卵、黄体化に影響します。
GnRhアゴニストは下垂体に作用してゴナドトロピン分泌を増やします。しかし、長期間用いると下垂体のGnRhレセプターが減少する結果、逆にゴナドトロピン分泌が減ってきます。この作用を利用して治療するのが偽閉経療法です。
この治療は筋腫の根本治療ではありません。骨量減少(骨粗しょう症)の副作用があるため、場合を限って行われます。それは、以下のような場合です。
(1)もうすぐ閉経になりそうな方に、閉経までの期間のみ行う。
(2)筋腫の手術予定の方に、手術までの過多月経による貧血の進行を防ぐ。
(3)GnRhアゴニストを使用することで、筋腫が小さくなる(数か月で20~40%程度の体積減少)ことが期待できるため、手術希望の患者さんに、腟式手術や腹腔鏡手術の可能性を広げられる。
(4)子宮筋腫への血流が減少するため、手術中の出血を減少できる。

3.手術療法

子宮そのものを取り除く子宮全摘術と、筋腫のみを取り除く筋腫核出術とがあります。
(1)腹式子宮全摘術:下腹部を切開して手術します。大きな筋腫や、子宮内膜症の合併などで子宮とその周囲の癒着が予想される場合に行われます。
(2)腟式子宮全摘術:腟の方から手術を行いますので、おなかに傷ができず、痛みが少ないため早期離床が可能です。大きな筋腫や癒着がある症例では行えません。
(3)腹腔鏡下子宮全摘術:腹腔鏡(先端にカメラがついた細い管)を腟式手術の補助として用いるものです。上の二つの良いところを併せ持っていますが、手術時間は長くなります。
(4)筋腫核出術:筋腫のみを取り除く手術です。子宮筋腫は多発性が多いため、根本的治療とはなりません。子宮筋腫が不妊の原因になっている場合などで行われます。子宮に傷ができるため、その後の出産は帝王切開になります。
(5)子宮鏡下筋腫核出術:子宮内腔に突出した子宮筋腫の場合に行われます。腟の方から内視鏡を入れて筋腫を取り除きます。子宮の中だけを見て手術するので、筋腫が筋層内にも多く存在していると取り残したり子宮に穴が開いてしまったりする可能性があります。

4. 子宮動脈塞栓術

子宮動脈(子宮を栄養する血管です)にゼラチンスポンジなどを詰めて子宮へ届く血液を少なくさせる治療です。
子宮の血流が悪くなることにより子宮筋腫が縮小して症状も改善されます。血流が低下することにより妊孕能(妊娠する能力)が下がると思われることから、妊娠を希望される方には他の治療法を考えます。

5. MRガイド下集束超音波治療

MRIで子宮筋腫の位置を確認後、超音波を集中して照射し、筋腫を高温化して壊死させる治療法です。一部の高次施設で行われていますが、現時点では保険適用ではありません。

婦人科医は、筋腫の状態の他、患者さんの年齢や症状、将来妊娠を希望されるのかなどを考慮して、治療を行うか、行うとしたらどのような治療が最善かを提案させていただきます。

!!!まずは悩まず相談を!!!